日本の園芸文化は、遣唐使らが奈良時代から平安時代にかけて、ウメやアサガオなどのように、漢方薬として持ち帰った実用植物とともに中国大陸から渡来しました。
やがて江戸時代になると、日本の園芸文化は世界に類を見ないほどに発展します。その最大の特徴は、『草木奇品家雅見(かがみ)』や『草木錦葉集』などが著されたように、斑入りや変わり葉など奇品・珍品が好まれたことによると言われています。花好きの将軍や大名・公家らの篤い庇護と褒賞の下、家督を継げない旗本らは実益を兼ねた高尚な芸道として新品種の作出に励み、隆盛を極めました。
その文化は、大名の参勤交代や物流の発達に伴い、歴代将軍とのつながりとともに東西を行き交い、江戸・尾張・上方・両筑などの大都市において独自の発展につながったとされています。そこには大規模な園芸商が集まり、江戸染井に代表されるような植木の一大供給地へと成長を遂げていきました。
明治・大正期に入ると欧米から多品種にわたる植物が導入され、加えて白沢保美*らの指導による都市緑化の兆しも見え始め、それらの地域は「4大植木生産地」(表)と呼ばれ、今日に継承されています。
明治・大正期以降になると造形木など庭園樹の需要が高まり、新興産地が全国各地で見られるようになります。なかでも千葉県匝瑳(そうさ)市(大阪府池田市の植木業者が病害虫に強い八日市場のイヌマキに着目し、関西地方に紹介したことで一気に植木生産が広まっていった)や神奈川県藤沢市(鎌倉や鵠沼(くげぬま) 地区の別荘地帯で需要が高まり、地形が平坦で、関東ローム層の土質が生産条件に適していた)が大きく発展しました。そして、戦後の緑化ブーム期では、三重県鈴鹿市(特に昭和30年代に少数の専業業者の指導によって「サツキ」主体の単品目専作型の産地となり、日本一の生産量を誇る)が顕著な発展を遂げています。
日本社会は今、東日本大震災により壊滅的な被害を受け、厳しい状況にあります。我々緑化業界は、復興の一翼を担うべく、長い歴史の中で培ってきた多くの知識と技術を生かし、業界を挙げて貢献していかなくてはならないと考えています。
* 白沢保美(しらさわ・やすみ) 1868年生まれ。
東京帝国大学農科大学林学科卒。林学博士。1907年東京市の街路樹事業の大綱を樹立。
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〈4大植木生産地〉
| 埼玉県川口市 ・さいたま市 | 「安行植木」として世界に知られる産地。10年に一度オランダで開催される園芸博覧会「フロリアード」にも出展している。江戸初期、伊奈半十郎忠治が、植木や花の苗木栽培を奨励し、これらを江戸で売り出したのが始まりで、江戸駒込・染井地区と同じ日光御成街道沿いという好立地条件に伴い、植木の郷として発展した |
| 愛知県稲沢市 | 鎌倉時代、矢合町の禅師が中国より柑橘苗木の生産技術を持ち帰り、近隣に伝授したのが始まりとされる。戦後になって、山林種苗全体から果樹苗木の生産に移行し発展した |
| 兵庫県宝塚市・大阪府池田市 | 安土桃山時代、坂上善太夫頼泰によって「接ぎ木」という繁殖方法が開発され、わが国の園芸の礎を築いたといわれる地域である。阪急山本駅前には「木接太夫」の石碑が建てられている |
| 福岡県久留米市 | 江戸時代よりロウソクの原料となるハゼノキの苗木の一大供給基地であった田主丸地区(現在は柑橘類苗木の生産で国内シェアの多くを占めている)は、そのころから殖木村を中心としてツツジの栽培研究家が多く集まり、品種改良や栽培法が開発され、クルメツツジとして広く知れ渡っていった |
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私たちの身近にある公園や街路などでは、生産者が育てた植木が使われ、緑化されています。このような人間の暮らしに近いみどりの場合、植えられる樹種は、都市景観や文化的歴史的背景を考慮して決められます。一方で、2010年10月、名古屋で生物多様性条約締約国会議(COP10)が開催されて、生物多様性の保全に関心が集まったこともあり、里山や自然公園などの自然度の高い地域では、環境や生物多様性に配慮したみどりづくりが求められるようになりました。
この自然環境に調和した緑化を実現するには、その地域の自然環境を表す「植生」を調べることが必要です。
植生とは、ひとつひとつの植物をバラバラなものではなく、集団として捉えたものです。森を観察すると、高木、低木、草と階層構造になっていて、場所が変わると構成するそれぞれの種類も変わってくるのが分かるでしょう。その場所に、その組み合わせで木があるのは、どうしてでしょうか? 植林された人工林でない自然林の場合は、決してデタラメに生えたわけではありません。その木がその場所に生えているのには、理由があるのです。
植物は、通常タネでその生育場所を広げていきます。しかし、タネが届く範囲イコールある樹種の分布している範囲、というわけではなく、温度や水分条件、地質や日当たりなどの環境条件が合った場合のみ、発芽し順調に生育して大きくなります。つまり、その場所に適した(あるいは順応できる)種類が生き残っていることから、どんな植物があるかを調べると、その場所の環境条件が分かるのです。これを植生調査といいます。
実際には一定面積の調査区を何カ所かとり、そこにある高木、低木、草など、すべての植物をリストアップして植物群のタイプを調べます。その調査結果をもとに植栽する樹種と組み合わせを決めることで、自然環境に調和した緑化ができるのです。選んだ樹種は、その場所の環境条件に合っている樹種なので、ローメンテナンスなみどりになります。宮脇昭氏が提唱する、潜在自然植生にならった樹種のコンテナ樹木で緑化する手法もそのひとつです。ダム周辺や大きな切土(きりど)法面(のりめん)のように、植生を大規模に復元する必要がある現場や、海岸地の砂防植栽、スキー場跡地などの植生復元などで、この自然環境に調和した緑化が広がることが期待されています。
そのためには植生を調査し、適切な植生復元計画を立案できる技術者が必要ですが、その技術者を育成する「植生アドバイザー育成講座」を、私たち?日本植木協会は、毎年開講しています。今年度も8月29日?9月1日に、群馬県の川場村で実施します。基礎から応用までの植生を学び、実際に野外で植生調査をして、その調査結果をもとに植生復元のための植栽計画をプランニングする実践的なプログラムです。
これからは人に近い都市空間と、自然に近い空間の緑化、それぞれの地域に合った緑化が大切になるでしょう。自然に近い空間では、人間の思い込みにとらわれず、調査できちんと自然の声を聞き、緑化したいですね。
�覺殀�種苗園(長野県) 上条祐一郎
![]() 採種した母樹のGPS 測地データ、採種から育成までの生産履歴(トレーサビリティ)を証明できる地域性苗 |
同じ種類の木でも、地方によって葉の形態が違うことは古くから知られていました。ブナの葉は、太平洋側と日本海側のものとでは違うし、富士山周辺のものはまた異なることが分かっています。コバノミツバツツジにいたっては、関ヶ原以東、関西、中国、四国、九州地区で各々違いがあるといわれています。タブノキは、関東以南のものは7月に採種して播くとすぐ発芽しますが、北限の自生地として有名な山形県酒田市のタブノキは種子が大きく、翌年の春でないと発芽しないと言われています。
このことを「種(しゅ)」の中の多様性」といい、多くの種類があることと共に大切なことです。
違いがあるのはそれぞれが固有の遺伝子を持っているためです。この固有の遺伝子の交雑を防ぎ「種の中の多様性」を保全するため、国立公園、国定公園などを含めた自然保護地域においては同種の植物でも他地区から持ち込まないことになり、1992年、リオデジャネイロで結ばれた生物多様性条約でも確認されました。
苗木を植栽する時は、その地域で採種して苗を作るのです。これを地域性苗木と言います。
では、植栽計画のある場所に、どの範囲からなら移動して良いのでしょうか。地域区分については、1974年に前川文夫博士による暫定案が発表されましたが、環境省や国交省でも検討中で統一は成されていません。
林業種苗法では、スギ、ヒノキ、アカマツ、クロマツの針葉樹4種について既に苗木の移動範囲制限規定があります。広葉樹種苗では、森林総合研究所がDNA分析を進め、地球史的な「進化的重要単位」を基に、移動して良い地域範囲を検討し、ガイドラインを作成中です。
このような動きにあわせ、日本植木協会の地域性植物適用委員会では次のような約束事を決め、「地域性苗木」を生産しています。
�� 採種する母樹は第二次大戦前からその地域に生えていた木であること。
�� 遺伝子が偏らないように、周辺複数の母樹から採種すること。
�� 採種した地点を市町村名と集落名及びGPSで記録し写真で撮っておくこと。
�� 採種日、播種日、鉢換え日等を記録しておくこと。
�,蓮¬�40年前の高度成長時代に各地から運ばれた樹木が大きくなって種子をつけているので注意が必要です。ちなみに「郷土種」とは現在その土地に生育している植物を全て含む呼び名です。遠隔地から運ばれたものでも、その地域で育っていれば「郷土種」です。紛らわしいのでこの名称は使わないことになりました。
�△蓮�一つの種の中の多様性を確保するために必要なことです。成長の早いものも、遅いものも太いものも必要なのです。「地域性苗木」では、通常の設計時に規格として重視される樹高は目安とされ、何年生の苗かが重視されます。
���い蓮▲肇譟璽汽咼螢謄�といいます。
タネ集めをしていると、どのような地質・地形で育っているかという適地が分かってきます。海岸近辺では300?500m離れただけで地質も風向きも違い、育つ樹種も大きく異なります。
森づくりには、「地域性苗木」の使用とともに、植栽する場所に適した樹木の選択と組み合わせが重要です。
�訐橘攫�芸研究所(静岡県) 正木伸之
![]() シマトネリコ(実) | ![]() カブトムシが今年かじった跡 |
昔から「梅に鶯、松に鶴」などと言って日本人は、植木と鳥の取り合わせの妙を楽しんで来ました。実際は、グイスでなくてメジロが来ますが、それは理想の情景を詠った言葉、科学ではなく文化なのです。
このように、庭に木を植えて鳥や蝶を呼び寄せ、一緒に楽しんでしまう植木を「誘鳥木(ゆうちょうぼく)」「誘蝶木(ゆうちょうぼく)」と呼んでいます。代表的な誘鳥木のツバキやウメには、メジロなどが蜜を吸いに来ます。ウグイスカグラやジューンベリーには、甘い実を求めてちょっとうるさいヒヨドリがやって来ます。秋に赤い実のなるソヨゴ、クロガネモチ、ピラカンサ、黒い実のネズミモチなども誘鳥木です。
誘蝶木では、例えばブットレア。英名でバタフライブッシュ、夏咲く花に蝶が来ます。それから、アゲハチョウが食べるミカン科のカラタチやサンショウなどもそうです。
さて、3番目の誘虫木です。あまり聞いたことないですね。実は、私が考えた造語なんです。文字通り虫を誘う木なのですが、何の虫かっていうと、皆さんが夏休みに散々追いかけた定番の「カブトムシ」なんです。
昆虫採集といえば、カブトムシ、クワガタが男の子の憧れでした。
朝早くから雑木林に出かけてはクヌギやコナラの周りを探し、根元をほじくったり、はては砂糖水を染み込ませた脱脂綿をクヌギに仕込んだりして、そこまで努力してもなかなか思うようには捕れないものです。
最近は、郊外に出ても雑木林が少なくなりました。田舎に行っても放置された林が多くなり、適度に人の手の入ったカブト、クワガタの好む環境の林が失われつつあります。
そんな中、ここ東京の多摩地区に、一度に20匹から30、40匹もカブトムシが捕れてしまう、子供たちにとって夢のような木があるんです。
それは、この連載の第一回で紹介した「シマトネリコ」です。このことは、植木屋仲間では常識となりつつありますが、一般にはまだほとんど知られていない現象です。
7月中旬、羽化後のカブトムシがこの木に集まって樹皮をかじっていました。中には交尾しているペアもありました。しかし、それもほんの2週間程度の限られた期間で、8月に入ると、幹には傷跡だけが残っていました。
なぜこんな事が起こるのか、はっきりしたことは解りません。外国産のトネリコでも同様の経験がありますが、同じトネリコ属のアオダモにはみかけません。きっとシマトネリコには、カブトムシを魅了する何かがあるのかもしれません。
この事実を知ってしまった良い子のみなさんへ、社団法人日本植木協会からのお願いです。来年の夏には植木畑にカブト捕りに行くぞーと思っても、勝手には畑に入ってはいけませんよ。植木屋さんが大切に育てている商品ですから。
そこで日本植木協会は、「日本列島植木植物園」という取り組みを行っています。それぞれの畑を一般の方にも公開しましょうということで、協会のサイトに各地の生産者の連絡先を載せていますので事前にご連絡ください。
これを機会に、少しでも「植木」のことに興味を持っていただけたら幸いです。
�蠑�金井園(東京都) 吉澤信行
![]() ふるさとの森づくり ボランティアによる植樹祭 徳島市沖洲マリンピア | ![]() 苗木の生産状況 徳島市国府町 |
かつて、コンクリートを多用していた河川工事や道路工事は、時代が昭和から平成に変わるにつれ、生態系の回復維持を目的とした「ふるさとの森づくり」や「緑のダム」などの設計施工へと変わり、生きた材料である植物を使い、多自然型河川工法、近自然工法、ビオトープ公園などの工事が行われるようになりました。
最近は、資金不足により樹木を植栽する緑化工事は減る一方で、代わりにボランティアによる森づくりが行われています。
植生には、「現存植生」と「潜在自然植生」があります。市民の森づくりとしてのカブトムシの森とかトンボ公園の森は、現存植生を中心に造られた森が多く、自然災害に強い安定した森は、極相林で、潜在自然植生の森です。25年ほど前、私はこの事を知り、自然災害に強い森や生物多様性のある森が、急速に失われつつあることに危機感を持ちました。
自然災害には、被害をできるだけ小さくする「減災」への努力が必要ですが、現実は人の行動が被害を拡大しているようです。鉄とコンクリートだけで防ぐことはできません。自然災害に強い潜在自然植生の森が必要です。
潜在自然植生を調べるには、多くの現存の森を調査し、共通して出現する種類を見出す手法が必要です。わずかに森から植物が発する信号を、時間と労力をかけて見つけます。
こうして調査した植物樹種を、高木層、亜高木層、低木層、草本層に分け、苗として生産可能な植物を選択し、種子を採取します。
例えば、私の住んでいる徳島市の中心部を潜在自然植生の森に変えるとしましょう。
高木層は、アカガシ、ツクバネガシ、イチイガシ、ウラジロガシ、タブノキ、スダジイ、アラカシ、ホルトノキ、ヤマモモ、モチノキなど。亜高木層は、ウバメガシ、クロガネモチ、ヤブニッケイ、シロダモ、ヤブツバキ、カクレミノ、ソヨゴ、ヒメユズリハ、サカキ。低木層は、ハマヒサカキ、シャリンバイ、トベラ、ヒサカキ、マサキ、アオキなど。
常緑広葉樹がほとんどを占めます。
「どんぐり」と呼ばれるブナ科の植物は、秋にどんぐりが実るので、落ちるのを待って採取し、殺虫処理をしてポット播きか育苗床に取り播きします。クスノキ科やモチノキ科の実は、秋に採取し、果肉を取り除いて床播きします。タブノキやヤマモモのように、7月に種子の採取をする種類もあります。またモチノキ科の種子は休眠期間があるので発芽に2年かかり、種子を乾かしてしまうと発芽しません。発芽するまで水管理が必要です。こうして発芽した苗は、改良土を入れたポットに一本ずつ入れて育苗します。2?3年経つと、高さ30?80�僂凌垢鼎�り用のポット苗になります。
森の再生には、調査でわかっている自然潜在植生をもとに、樹種の被度や占有率から植栽樹種本数の比率を決めなくてはなりません。このことは高度な判断が必要になってきます。
私たちはこのように、植物の持つ特性や森の果たす役割を知り、森づくりのための苗木を生産、流通させています。本業を通じて、防災や減災を常に意識した安全で緑豊かな社会づくりへ貢献できると考えています。
�蠧租膰�植物市場(徳島県) 森本泰好









